総論

戦前の豆腐は高価で、かけそばや銭湯の料金と同じだったといいますから今の700円くらいだったのでしょうか。それは薪くべから始まって全て手作業だったからでしょう。そのころ豆腐作りに使われる凝固剤は概ねにがりでした。豆乳が濃く絞れなかったということから今のような濃厚なものは無理だったかもしれませんが、甘みも香りもきちんと出ていて、豆あじのしっかりとしたおいしい豆腐であったはずです。

にがりは、海水のなかの塩化マグネシウムを主成分とした液体です。そのにがりによる凝固を極めたのが日本の伝統的な豆腐だと思います。ただ戦時中に、マグネシウムは戦闘機などに使うジュラルミン材料として製造が統制されたため、豆腐作りににがりが全く使えなくなり、代わりに硫酸カルシウムを使うようになりました。そのことが戦争直後、日本の豆腐がまずくなった原因だと思います。

味に関する限りもっとも基本的かつ重大な差異を生み出す要因はにがりです。
豆すりや煮炊きはにがりに比べれば小さな要因です。何から何までこだわるならば、石臼、大鍋、消泡剤の使用や、人力絞り、櫂(かい)撹拌などを行うことになりますが、それらは味の芯の部分には関係ないことです。